2016年11月01日

映画『ベストセラー』

 以下の文章では、映画『ベストセラー』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 事実に基づく物語だそうだ。フィッツジェラルドをデビューさせ、ヘミングウェイの何作かを世に出した名編集者がいた。パーキンズという男で、家庭では妻と五人の娘の父。トマス・ウルフが持ち込んだ原稿を認め、手直しさせ、デビューさせる。ウルフはデビュー作で「天才」と評される。

 そこからが大変だ。2作目を書き上げるが、これも手直しの連続。二人で編集部に一日中こもったり、パーキンズの家にウルフが泊まったり、ほとんどスポーツ選手の合宿みたいだ。実際にパーキンズがどこまでウルフにヒントを与え、ガイド役を果たしたのかはわからないが、ここで見る限り、その指摘は的を射ている。たとえば、初恋の女性との出会いの場面を延々と比喩を使って描写するウルフに、初恋だろ、そんなことを思う暇があるか、と短く書き直させる、というように。
 しかしウルフにもパーキンズにも不安はある。こんなに「編集される」のは自分だけではないかと思うウルフ。酔って、「ヘミングウェイやフィッツジェラルドにもこんなに直させたのか?」とからむ。一方、パーキンズは、本当に作品をより良くしているのだろうか、もしかしたら「別の作品」を作っているのではないかと悩むこともある。
 ウルフのパトロンだったユダヤ人の夫人はパーキンズに嫉妬し、パーキンズ夫人は、夫は自分に持つことのできなかった息子の代わりにウルフの面倒を見ているのだと思う。
 本を読むのが仕事であり趣味でもあるようなパーキンズをウルフが一夜誘い出し、ジャズを聴かせる場面が楽しい。
 また、フィッツジェラルドやヘミングウェイとパーキンズの交流も挿入される。書けなくなったからハリウッドへ行こうと思うと言うフィッツジェラルド。スペインへ行くと話すヘミングウェイ。彼らのそういう姿を見ていると、今、小説を書くのに必死なウルフにパーキンズが入れ込むのも納得できる。
 二作目も高い評価を得たウルフだが、旅先で倒れ、短い生涯を終える。彼が死ぬ前に書いた手紙がパーキンズに届き、読み終わったパーキンズが涙をこぼすところでエンド。このタイミングが良かった。延々と泣くのを見せるわけでもなく、こぼれた涙を急いでぬぐうパーキンズの顔を少しだけ見せて、暗転。
 実際はどうだったのかは知らないが、ウルフがパーキンズの編集者魂も連れて行ったのでは、と思わせるようなラストだった。


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