2015年10月22日

『世代』『地下水道』

 以下の文章では、映画『世代』『地下水道』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 アンジェイ・ワイダ監督の古い映画が続けて放映されたので、見た。
 これに『灰とダイヤモンド』を加えて「抵抗三部作」と呼ばれている。
 今見て思うのは、もちろん「抵抗」はテーマなのだろうが、それ以外の見方もさまざまにできるところが、映画としての豊かさを感じさせるということだ。

 2作とも、第二次世界大戦中の、ドイツに抵抗するポーランドの一側面を描いている。
『世代』は青春映画だと思った。ドイツ占領下のポーランド。木工所に見習いとして雇われるスタフ。学校で、反ナチの人民防衛隊結成を呼びかける女性ドロタを見かける。スタフはまず、ドロタの美しさに惹かれる。木工所の先輩からは所長がどれだけ儲けているかを聞かされる。そこで、友人を誘って防衛隊に入る。
 木工所には抵抗組織の一員が武器を隠しており、偶然それを見つけたスタフはピストルを持ち出す。理不尽な暴力をふるったドイツ兵を射ち、ユダヤ人蜂起を応援しようとするが、仲間のひとりが犠牲になる。
 ドロタは、さらに新しい仲間が入ってくるから指導してほしいとスタフに頼み、初めて一夜を共にするが、翌朝ドイツ兵に連行される。泣きながら待つスタフのところへ、新しい仲間が輝くような顔で現れる…
 スタフの青春の盛りはドロタとの一夜に集約され、それは過ぎ去ってしまった。若者らしい年長者への反発、あせって成果を出そうとするようなところ、武者震いと恐怖……さまざまな面を感じさせてくれるところが「青春映画」だと思った。

『地下水道』の登場人物たちは、もっと大人だ。恋人や、妻子のある人たちが多い。ワルシャワ蜂起の最後、ドイツ軍の砲火を浴びた中隊。退路を断たれ、地下水道を通るしかない。
 映画の前半は地上戦、後半は地下水道に入ってからになる。入る時間に差ができ、さらに中にいる他の人たちのパニックに巻き込まれたりして、中隊はバラバラになる。空気の悪い、暗い空間で水に浸りながら、調子を崩していく。
 持っていたオカリナを吹きながらフラフラとさまよっていく男。恋人だと思っていた男が「死にたくない。妻子のもとへ帰る」とわめき出してショックを受ける女。負傷した男を支え、明かりの見える川への口に辿りつくが鉄格子のはまっていることに気づく女。地上に出るがドイツ兵に囲まれてしまう者。部下がついてこなかったことで異常になる隊長。 
 パニック映画だってこんなにいろいろなパターンはなかなか思いつかないだろうというような、絶望的な、まさに出口のない状況が示される。
 それでも「やり過ぎ」と思わせないのは、撮影の仕方にも役者の演技にも抑制がきいているからだろう。
 単に一中隊の悲劇、というだけではない、地下水道が何かの象徴であるかのように見えてくる普遍性を持たせていると思う。
  

Posted by mc1479 at 09:05Comments(0)TrackBack(0)

2015年10月10日

本『ふくわらい』

 以下の文章では、西加奈子の『ふくわらい』の内容に触れています。ご了承ください。

 面白かった。西加奈子の小説はいくつか読んだことがあるのだが、その中で一番面白いと思った。
 主人公が編集者で、彼女の担当する作家が出てくる。高名な作家だが90歳を超えて随筆しか書かなくなった水森。もと引きこもりの之賀(これが)。プロレスラーだが週刊誌にコラムを連載している守口。
 主人公の鳴木戸(なるきど)は「言葉を組み合わせて文章ができる、しかも誰かが作ると、それは私の思いもよらないものになる」ことに感動する人間だ。担当作家のことをできるだけ知ろうとし、要望に応え、激務が続いても机の上はいつもきれい。
 というわけで、まず文章を書くことに興味のある人間には、鳴木戸は興味深い。しかも彼女は、仕事と、趣味のふくわらい以外にはいっこう頓着しないような人間なのだ。ちょっと壊れている人間、と言ってもいいかもしれない。しかし彼女が無職の引きこもりではなく、周りからも優秀と見なされる編集者だという設定に好感が持てる。
 上橋菜穂子の解説によれば、世間の人が当たり前に感じている感情がわからない主人公が、世界と自分がつながる一瞬を味わう……ということになるのだが、それだけではない面白さがある。登場人物がそれぞれにヘンだ。ヘンな人なんだけど、そばにいて話をしてもいいかな、と思わせるところがある。
 紀行作家というより冒険家だった主人公の父。目が見えないのに主人公に一目惚れする男性。主人公と対照的に見えながら、友達になっていく同僚の女性……
 主人公の回想や、訪れる場所や、タイトルになっている「ふくわらい」もすべて上手に収まって、ぴったりと効果的。もしかすると、この、あまりにも上手にはまっているところが作為的と思われることもあるかもしれないが、私は楽しんだ。  

Posted by mc1479 at 13:32Comments(0)TrackBack(0)

2015年10月01日

テレビ キューバふしぎ体感紀行

 以下の文章では、2015年9月19日・26日に放映された「キューバふしぎ体感紀行」の内容に触れています。ご了承ください。


 女優の鶴田真由が2週間くらいかけて、キューバを巡る。なぜ興味があったかというと、玉木くんも以前、紀行番組でキューバへ行ったから。もっとも彼の場合、ジャマイカ・コスタリカ・キューバと3カ国回っていたので、この番組はキューバだけを詳しく紹介するのだろうと思った。
 鉄道でハバナから出発。ハバナで古いアメリカ車が大切にされタクシーとして利用されているのは、5年前に玉木くんが行った時とそう変わりはないようだ。
 マタンサスでは、独自の宗教を信仰している人たちに出会う。アフリカ系の人々が根付かせたもので、自分たちの信じている神々をキリスト教のマリアなどに重ねて信仰している。
 観光用のSLにも乗る。鉄道のない所ではヒッチハイクもするが、これは半ば公共交通機関のようになっていて、車を止めて交渉する公務員がおり、料金を払って乗せてもらう。
 サンタクララで、15歳を迎える女子の盛大な成人パーティに。成人式が派手だというのは、玉木くんの紀行にも出てきた。
 サンティアゴ・デ・クーバではカーニバルを見学。

 そこからは北側の海をたどって戻る。古い港町バラコアでコロンブスの立てた十字架を見、フンボルト国立公園で貴重な動物を見、先住民の血が流れている人たちにも出会う。
 地元の釣り船に乗せてもらい、海へも潜る。ヘミングウェイの通った食堂にも行く。最後は漁師たちとのやり取り。
「海は母親のようだ。ラ・マルと女性名詞で呼ぶんだ」
「海はいつもサインを送ってくれている。それを見逃すと危険になる」
「釣れない日があってもそれはいい」
 漁師たちの言葉、女性名詞のことは『老人と海』の中にもあるそうで、これが漁師たちが常に意識していることなのか、それともヘミングウェイが愛した場所を訪れる人にならこう言うといいだろうというサービスなのか。
 アメリカとの国交を回復したキューバなのだが、意外なくらい社会的なことには触れられていなかった。
 4年前から自営業をやることがかなり自由になったことくらいだろうか。
 玉木くんの紀行では、一般のお宅へお邪魔して、配給手帳を見せてもらったり、電化製品も配給されること、家賃は安いこと、しかし配給される食糧だけでは足りないので食費がかかること、などを聞いていた。
 今回のこの紀行では、大学までの教育費が無料なのは変わっていないことや、電車賃も(キューバ人なら)かなり安いことはわかったが、それ以外にはあまり具体的な生活費のことなどはわからなかった(アメリカに出稼ぎに行っている人が多いのは伝わってきた)。
 森林や海中など、どちらかというと「自然に触れる」ことが多かったので仕方がないのかもしれないが、アメリカとの国交が復活したキューバで「リゾート地のホテル建設が進んでいる」以外の変化も、もう少し見せてくれれば、と思った。  

Posted by mc1479 at 08:53Comments(0)TrackBack(0)
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