2017年01月24日

肉小説集

 以下の文章では、坂木司の本「肉小説集」」の内容に触れています。ご了承ください。

 いろんな小説集があるものだ。これは、各小説の大切なところに、必ず肉料理が出てくる。ロースカツ、豚バラの角煮、ホルモン焼き……、まあ、ハムも出てくるので、これは料理とは言えないかもしれないが。ちなみに肉といって豚肉なのは、作者が関東人だからだそうな。
 気になっていた彼女の家に初めて行ってご馳走になるのがそれ、だったり。塾で一番前に座る子がいつも食べているのがハムサンドだったり。
 恋愛がらみ(これから結婚して生きていく、というのも含めて)が多く、中でも彼女の家に行って食べる、あるいは分けてもらうという話がいくつもあるのは、そういうシュチュエーションだと描きやすいからだろうか。彼女の(あるいは彼女の家庭の)好みの味。なぜ、それをよく作るか。そんな理由から話しも展開しやすいのだろう。
 サスペンスというか、ちょっと自意識過剰な主人公がピンチに陥る話もあるが、上司の退職後、悩んでいた男がそこから一歩踏み出すなど希望の持てる話が大半で、また、そういう話がこの作者に合っているように思う。
 会話が面白かったのは「魚のヒレ」という話。ほら話が得意だった祖父に「このヒレ肉というのは、魚のヒレが退化した部分なのだ」と子どもの頃ウソの説明をされて信じてしまったとか、そういう話を語るうちに男女がちょっとずつ打ち解けていく過程がイヤミなく受け取れた。  

Posted by mc1479 at 09:01Comments(0)TrackBack(0)

2017年01月24日

人生オークション

 以下の文章では、原田ひ香の本「人生オークション」の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 「人生オークション」「あめよび」の2作が入っているのだが、どちらかというと「あめよび」のほうが印象に残った。もちろん、タイトルとしては「人生オークション」のほうがインパクトがあるだろう。不倫のあげくに離婚した叔母の、せめて賃貸料の足しになるかと、叔母の持ち物をネットオークションに出すように勧めた「私」がその手伝いをしながら、叔母の人生を垣間見ていく。ブランドもののバッグは結構売れるが、衣類は安くてもなかなか売れない、などのオークションにありそうなことも描きながら、叔母に反発しながらもどこか自分と似ているところもあるとわかっていく「私」。
「あめよび」のほうは、あるラジオ番組のファンであることをきっかけに知り合った男性・輝男と付き合う美子の、そのずるずると続いている関係をどうしようかという話だ。結婚したいと美子が言っても、自分はそれに向かないと答える輝男。両親の不仲を見てきたことを話す輝男は「諱(いみな)」を持つという地方の出身なのだが、ではその大切な諱を教えて、と美子が迫るとそれは教えてくれない。結局輝男と別れた美子は結婚紹介所で知り合った男性と結婚し、飛行場で再会したとき、輝男は美子に諱を教える。
 ラジオ番組のファンの集まりやら、ラジオで自分の投書か読まれることを生きがいにしている「ハガキ職人」と呼ばれる人たちの存在や、諱を持つ人たちのグループ、というように「へえ、そういう世界もあるのか」と思うようなことが次々と出てくるのが、こちらのほうが面白いと思った理由かもしれない。これが男性作家だったら、どうしようもない輝男に、それでも美子はずっと付き添っていく、ということになるのかもしれないが、別れたところが女性作家らしい現実味があると思った。
 それは「人生オークション」のほうにも言えて、叔母は自分の人生を建て直せそうなきっかけを得て、パート勤務とはいえ、就職が決まったところで、話は閉じられる。
 んあとか前向きに生きていけそうなところで終わりにするのが、この作者の後味のいいところかもしれない。  

Posted by mc1479 at 08:51Comments(0)TrackBack(0)
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