2014年06月28日

映画「幕末高校生」感想

 先行上映で見た『幕末高校生』の感想です。内容に触れていますので、ご了承ください。封切り時に新鮮な気持ちで見たい方は、以下の文章はお読みにならないでください。


 眉村卓の『名残の雪』が原案ということになっているが、ストーリーは全く別。確かに『名残りの雪』でタイムスリップした先も幕末だが、出てくるのは新選組の人たちで、勝海舟ではない。あえて言うなら、その時代で剣の腕を磨いていった『名残りの雪』の主人公の姿は、『幕末高校生』では刺客になろうとする沼田慎太郎に受け継がれているように見える。
 それにしても『幕末高校生』というタイトルは、中心になっているのがタイムスリップした高校生の成長なのかな、と思わせるが、この映画ではその生徒たちの担任教師の川辺未香子と、幕末に生きた勝海舟の方に比重が置かれている。
 現代の高校生活を描いた部分は、あまりリアルには感じられない。おじさんのイメージした「今ドキの高校生」 という感じ。
 タイムスリップしてから、つまり江戸時代に行ってからは面白い。わけのわからないところに来た現代人のリアクションもだが、それを上回る笑いを誘う(立派な人のはずの)勝海舟の表情や動作。しかもウソっぽくない。あの時代に「ちょっと出かける」と言ってアメリカに行ってしまった人なら、確かにこういう調子に乗りやすい面もあったのかも。
 有名人の話と、無名の人の話がシンクロしていく、という点では、小説だが例えば『乙女の密告』を思い出させる。『乙女の密告』の場合はシンクロしていくだけだが、これはタイムスリップして出会うので、誰もが知っている有名な人の有名なエピソードに、もしかしたら無名の人が影響を与えたのかもしれない、というのが面白い点。
 タイムスリップの場合、いつ帰れるのか、果たして帰れるのか、というのがスリリングなわけだが、この話も帰れることは決まっていてもギリギリのところではスリルを味わわせてくれる。そして、それが勝海舟の行為ともシンクロしている。
 李闘士男監督の映画は『デトロイト・メタル・シティ』と『てぃだかんかん』を、しかもBSで見ただけの私が言うのも何だが、李監督はたぶん映画を映画たらしめるのは役者の肉体だと信じているのだと思う。だから、ここに出ている役者さんが体を張って活躍するのを見たいファンには絶対、楽しめる。  

Posted by mc1479 at 16:40Comments(0)TrackBack(0)

2014年06月20日

『チョコレート ドーナツ』

 以下の文章では、映画『チョコレート ドーナツ』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 ミニシアター系で公開される映画としてはヒットしているのだろうか。私が見たときの伏見ミリオン座は満席だった。でも「感動」を求めて見に来たのだとしたら「これは、ちょっと違う」という感想を抱いて帰るのではないかと思う。

 1970年代。同じアパートに住むジャンキーの母親から構ってもらえないダウン症の少年を、ゲイのカップルが引き取ろうとする。母親が刑務所にいる間は認められ、適した学校へ行くことで少年も明るくなる。だが、彼らがこのままずっと少年を引き取りたいと思うと、世間も裁判所も邪魔をする……

 何しろ1970年代だ。同性愛への反感は強い。彼らに引き取らせるくらいなら、と取引して母親を早く出所させたりする。同性愛より薬物中毒のほうがまし、というわけだ。いや、薬物中毒だろうと何だろうと「実の母親」が出てくれば、勝ち目はないらしい。
 しかし、少年は母親の住まいを「家じゃない」と言い、母親が男と一緒にいる間に外をさまよい、結局死ぬ。
 つまり全然ハッピーエンディングじゃないのだ。裁判は負けるし、血のつながらない男ばかりの家庭は壊されるし、その後状況が変わって今ではこういう家族もいますよ、という字幕説明すらない。そういう映画でも見せきることができるのはすごいと思ったが、何かもやもやするのも確か。主演のアラン・カミングには代表作ができた感じ。  

Posted by mc1479 at 15:39Comments(0)TrackBack(0)

2014年06月17日

『事件救命医2 IMATの奇跡』

 以下の文章では、ドラマ『事件救命医2 IMATの奇跡』の内容・結末に触れています。ご了承ください。


 日向先生が帰ってくる! と楽しみに待った1ヶ月。昨年10月に第一弾が放映され、今年5月15日に、第二弾が6月15日放映と情報解禁された。早い。最初から続編も作る予定があったのかもしれないが、嬉しい。

 魅力のカギは主人公の日向にあると思う。ふだんはのほほんとしているが、事件現場に出ると恐いもの知らず。昔、爆破事件で目の前で父を失い、その時父が言いかけた言葉は何だったのか、今も聞きたいと思っている。同じ爆破事件でやはり父を失った刑事の影浦。たとえば刑事二人が組んで事件にあたる、というのはよくあるパターンだけれど、この二人は単に組んでいるだけではない。お互いを「もうひとりの自分」だと感じている。
 今回は、心臓移植手術にバスジャック事件がからむ。展開は早く、予測不能なストーリーはもちろん面白い。が、内容を見れば、これは絶望に関する話だ。
 絶望を味わい、相手にも同じ体験をさせようとする女(主犯)と、絶望の色が好き、と言いながら教祖の命令に従うことに幸せを感じる実行犯と、絶望を知りながらなお希望を見出そうとする医者の日向。復讐を遂げた女は死ぬが、日向には復讐したいという気持ちはあったとしても、その女のようにはできない。なぜなら日向は、爆破犯と疑われている父の無実を信じているから。父の無実を信じている自分が死んでしまったら、父を信じる者がいなくなる――たぶんその思いが日向を支えている。だから、彼は復讐を遂げて死ぬ、なんてことはできない。
 ところが、日向は医者である。医者としての立場を利用すれば「復讐」には見えないかたちで人を殺すこともできるかもしれない。もしかすると、それをやってしまうのではないかと影浦は疑っている。では影浦は? 影浦には絶望はなかったのか。あるいは絶望するヒマなく次のステップに進む人間なのか。
 走り続けるバス、という設定からは、どうしても映画『スピード』を思い出す。警官が途中でバスから飛び降りるのも、もしかしたら『スピード』のパロディか(『スピード』では、警官が途中からバスに乗ってくる)。ツッコミどころもあるが、押し切る迫力もある。
 今回の主犯が女性の医者であることで「医者は患者の生命を危機にさらすようなことはしないものだ」という前提は崩された。そのことによって影浦は日向への疑いを強めるだろう。しかも日向自身がその疑いを払拭しようとしていない。それどころか、SITに戻ることになったと告げる影浦に向かって日向は言う。
「人を殺せるようになったのか? お前は」
 裏を返せば「俺は、人を殺すことはできるよ」という意味だろう。挑発か。こんな危なさがあるから見ていたい、もっと見たいと思うのだ。  

Posted by mc1479 at 08:12Comments(0)TrackBack(0)

2014年06月06日

『グッド・バイ」

 以下の文章ではNHK-BSの「プレミアムステージ」で放映された『グッド・バイ』の内容・結末に触れています。ご了承ください。


 太宰治の『グッド・バイ』をもとにした劇だという。脚本は北村想。
 はて、太宰の『グッド・バイ』はどんな話だったっけ、と確認してみる。愛人(多数)と手を切りたいと考えた男が「すごい美人」を雇う。その美人を連れて愛人の所を訪れ、「この人と結婚することになったから(君とは別れる)」と言うわけだ。愛人がそれで泣いて別れるくらいだから、すごい美人なのだが、大食である。ケチらずにご馳走しなさいよ、とも言う。ずうずうしいのだ。未完の小説。
 劇のほうでは主人公の男は大学教授に設定されていて、その助手の男が「教授が秘書を募集しています」という形にして女性を集める。仕組んだ上で、みごと採用された女性は助手の恋人。「この仕事がうまくいったら僕も助教になれるから結婚しよう」と助手に言い含められている。
 しかし、どうやらこの女性は、教授と一緒に女たちの所を回るうちに教授に心惹かれてゆく。そして、どうしても彼女たちが「愛人」だというのが信じられなくなり、話を聞いて実は教授が彼女たちを援助していたのだと知る。
 優しいじゃないか、と思う。8人も愛人がいてね、と豪語している教授は今も亡き妻の思い出に生きていて、その妻を忘れるために愛人をたくさん作った、というふりをしていた。秘書になる美人は河内弁をしゃべり酒に強いが、実は教授の純な姿にキュンとくるわけだ。助手も根っからの悪人ではなさそう。
 そういう優しいおとぎ話として解釈してみました、ということだろう。もちろん太宰の作品が未完である以上、その後をどう展開するかは劇作家しだい。でも、大食で欲張りですごい美人、というのもなかなかよろしいじゃないかと思っていた身には少々物足りないかもしれない。  

Posted by mc1479 at 14:40Comments(0)TrackBack(0)
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