2016年11月01日

家政夫と代理の母

 以下の文章では、テレビドラマ『家政夫のミタゾノ』と、原田ひ香の小説『母親ウエスタン』の内容に触れています。ご了承ください。

 
 10月21日から始まった『家政夫のミタゾノ』を見た。どう聞いても以前あったヒットドラマのパクリのようなタイトルだが、主人公は女装の男性。ほぼ無表情で、雇い主の家の「見られたくないもの」を暴いていく。ものすごく愛情深いというわけではなく、そんなにその家族から好かれるわけでもない。
 ただし、家事全般はきちんとやる。プロフェッショナルというわけだ。そのコツを見せる、というのも売りものらしい。第1回では、途中までミートソースを作ったのを急遽中華に、ということで「食べるラー油」を混ぜ、ナスを入れて麻婆茄子にするというワザ。シャツのシミを急いで抜く方法。浴室のカビを減らすには・・・・・・というのが披露された。
 一話完結なので、一見幸せそうに見える家族の「実は・・・」という部分を暴いていく趣向らしい。ただし、最後は一応のハッピーエンドにするようだ。ミタゾノがどうして女装しているのか、なぜ家政婦という仕事を選んだのか、もいずれ明かされるのかもしれない。
 ちゃんと起承転結があって、家事のコツも見せてくれてお得感を出している。次々と家に行くのだから、いろいろな家庭を描けそうだ。
 
 さて、同じ頃、『母親ウエスタン』(原田ひ香、2012年)という本を読んだ。これは、子どもの母親代わりになるために家庭に入り込んでいく女性の話だ。男、よりも子ども。子どもの母親代わりになることが目的。そのために男には近づくけれど。
 もし、これがドラマなら、きっと一回につきひとつの家族での顛末を描くのだろうけれど、小説だから凝った構成をとる。男に近づいてきて、一緒に住み始める話が語られたかと思うと、一見関係のないような、大学生の男女の話になる。実はその男のほうが、かつてふらりとやって来た「母親」に世話になって、それは一年半だったのだが、その時のことを今も忘れす感謝している。その人らしい人を見つけたので、自分から近づいていく・・・・・・という話。さらに、もうひとつ別の家庭の話、彼女がなぜそういう暮らしをするようになったかということも明かされていく。
 正直言って、この種明かしのような「なぜ」の部分は無くても面白いのに、という気もする。しかし、そうはいかないのだろう。代理の母を続ける彼女には、ひとりだけ自分の実の子を手放してしまった過去があった。姑に追い出されるように離婚して、それからこういう生き方をするようになったこと。実は次々に回った家族のことはよく覚えていなくて、今も実の子ひとりだけは忘れられないこと。
 そう明かされてしまうと、自分のてから失われた子の代わりを求めていただけなのか、とちょっと思う。奇抜な理由が必要だとは思わない。いっそ何の理由もなくそういう生き方をする女性がいた、という話のほうが面白い気がするが、どうだろうか。

追記 そうこうするうちに、『ミタゾノ』第2回が放映された。ふむ・・・いつも、いわゆるふつうの幸せな家庭(家族みんなで仲良く一緒に暮らす)が結末になるのなら、ちょっと面白くないかもしれない。全然別のドラマだが『家売るオンナ』が面白かったのは、家族という形は崩壊しても、あるいは世間一般的に見れば家族でない者どうしが一緒に暮らしてもいいんだよ、という例をいろいろ見せてくれたからではないだろうか。


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