2014年12月23日

「きょうは会社休みます。」感想

 10月から始まったドラマが最終回を迎える12月。玉木宏くんが出ているから見ていた『きょうは会社休みます。』も17日で最終回だった。全10回。
 以下の文章では、テレビドラマ『きょうは会社休みます。』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 始まる前には「マンガが原作」「玉木くんは女主人公の『相手役』ではない(それは若い福士蒼汰くんの役)」「原作は今も連載中(つまり結末はわからない)」というくらいしか知識はなかった。その後もマンガは読んでいないので、原作との比較は今もできないのだが、原作とはだいぶ違っていたらしい。
 マンガが原作というと不安に思う人もいるかも知れないが、玉木くんの場合、原作を超える。マンガで描かれたカッコイイ人物を生身の人間が演じるのに、それよりカッコよくなってしまうという不思議。『のだめカンタービレ』がそうだったし、『MW』もそう。だから、その点に関しては期待していた。
 結果から言うと、その期待には十分応えてくれた。カッコイイのだ、玉木くん扮する朝尾侑。主人公・花笑(綾瀬はるか)の勤める会社と同じビルの、ひとつ上の階に入っている会社の雇われCEO。やがてCEOを解任され、自分でレストランのオーナーになるという変転をたどるのだが、現れた瞬間の余裕たっぷりな大人の男の色気が、若い(大学生のバイト役)田之倉(福士蒼汰)とは対照的で、ドラマの中の位置としてもおいしい。
 30歳になって初めて恋に落ちる、という下手にやったら絶対に信じられない役を綾瀬はるかが演じて、あり得るかも、と思わせることにまず成功している。綾瀬さんはおじさんにも人気があるし、同性でも「綾瀬はるか嫌い」と言う人はまずいないので、主人公に好感を抱いてもらうという点ではぴったり。彼女の恋の相手として現れる福士蒼汰も最初のいかにも爽やかでキュンキュンさせてくれるというイメージにはよく似合っていた。
 正直言って、2人の恋愛だけでは10回持たない。花笑の会社の同僚で最初朝尾さんを狙う大川瞳(仲里依紗)、大物感だけはある加々見(千葉雄大)、花笑と同期の大城(田口淳之介)の話、それに花笑の両親、親友がちょくちょく顔を出してやり取りをすることで面白く進行する。青石家の飼い犬マモルも好演。そして毎回挿入される花笑の妄想シーンが本編とは離れても面白くて、この部分が「コメディ」としてドラマ全体を明るく救っていた。「ラブ・コメディ」と宣伝されたわりには主役と相手役のやり取りにはそんなに笑えるところがないので、妄想シーンで笑いを作っていた感がある。
 妄想シーン以外で笑わせてくれる、あるいは時に「言えてる!」というセリフを聞かせてくれたのが朝尾さん。朝尾さんがおいしい役だというのは、そういう意味もある。恋をためらう花笑の背中を押す「傷つくことを恐れるより、変化できない自分を恐れるべきだね」から、最終回の「知ってた? 本当に相手のことを忘れた人は、もう忘れましたからって言わないんだよ」まで、名セリフをあのいい声で聞かせてくれた。
 花笑との「私たちは友達じゃありません」「じゃあ何なの?」「犬猿の仲です」「俺はね、君のことを猿だと思ったことは一度もないよ」「朝尾さんが猿で、私は犬です」「犬ってもっと可愛げのある生き物じゃなかった?」というやり取りはラブ・コメ的会話として最高。
 全体を通して決して出番が多いわけではないのだが、ここぞというシーンを締めてくれた。俳優さんでもカッコいいセリフを言う時に「照れ」の感じられる人はいるものだが、玉木くんのすごいのは、どんなセリフでも行動でも決して照れずに演じきり、「あり得ない」と思えるものも「あり得る」にしてしまうところ。
 ドラマとしての結末では、花笑はやっぱり若い田之倉くんを、先のこともはっきりしないのに「好き」でいることを選ぶのだが、総合職に替わって今までより仕事に力を入れるというのには納得がいった。まだ大学生の彼とやっていくために自分の給料や仕事のスキルを上げようとするのはリアルな選択だと思う。その辺に女性プロデューサーの気持ちが込められているのかもしれない。
 最後に、ノリのいい、時にユーモラスな音楽がとても良かったことを覚えておきたい。  

Posted by mc1479 at 13:11Comments(2)TrackBack(0)

2014年12月23日

秋冬に読んだ本

 最近読んだ本について書いていないな、と久しぶりに書いてみることにした。今は図書館で借りて読むのが主だから少し前に出版されたものを読むことが多いし、予約がいくつも入っている人気本は読まないのだが。
 以下の文章では『主婦と恋愛』(藤野千夜)『空白を満たしなさい』(平野啓一郎)『三月』(大島真寿美)の内容に触れています。ご了承ください。


 『主婦と恋愛』 藤野千夜
 思わせぶりなタイトルのわりにさらっとしているというか、この「さらっと感」が藤野千夜なのだと言われれば、そうでもあるような。
 タイトルが『主婦の恋愛』ではなくて『主婦と恋愛』なのだから、「主婦」と「恋愛」は別々のものだと示しているのかもしれない。恋愛とも言えないような感情の動きを描いたものだが、全体的に他人との関わりの描き方が上手。
 たとえば、実の娘と同居している義母がやってくるあたり。一泊して翌日一緒に出かける時に、主人公の女性はグロスを念入りにつけたりして唇重視のメイクをするのだが、気さくな義母は「上手く描いたわね、眉」と意外な指摘をしてくる。微笑ましい場面とも言えるのだが、義母との感じ方の違いがすっと現れているようで巧いと思う。

 『空白を満たしなさい』 平野啓一郎
 死者が蘇ってくる話というのは何かずるいような気がするのだが、それが大量で社会現象にもなってしまうのが面白いところ。しかも「復生者」と呼ばれるようになった彼らはまた突然、消え始める……
 主人公が、自分の死は「自殺」だったのだと認め、再び消えていくことを思って悩む姿が描かれる。そして結末が意外に感動的。意外に、というのは失礼な言い方かもしれないが、平野啓一郎にはもっとクールなイメージがあったので。もしこれが「感動」を求める現代人に合わせて書かれたのだとしたら、さすが。

 『三月』 大島真寿美
 二十年前に同じ東京の女子短大を卒業した女性たち。東北に嫁いだ一人の家の近くに来て、ホテルに一泊する。それまでの過程とその日が連作短編の様相で、領子、明子、花、穂乃香、則江、美晴とそれぞれ違う女性が中心になって描かれる。
 最初は、その中の一人とつき合っていた二十二歳で死んだ(自殺?
事故?)森川という男性の話題が中心だと思っていたら、それぞれの人生が描かれ、そして最後に、多くの人命が失われたあの日が来る。タイトルの『三月』とは、あの大震災が起きた三月なのだ。
 もっともこれは、大震災を描いた話ではない。二十年間にそれぞれ何となく「こんなはずではなかった」が「こんなふうに生きてきた」女性たちを描く話と言えるかもしれない。そういうことを表していると思う上手な描写。
 「これが自分の近況であることへのかすかな違和感がみぞおちのあたりで疼いている。」  

Posted by mc1479 at 10:34Comments(0)TrackBack(0)
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