2014年12月23日

秋冬に読んだ本

 最近読んだ本について書いていないな、と久しぶりに書いてみることにした。今は図書館で借りて読むのが主だから少し前に出版されたものを読むことが多いし、予約がいくつも入っている人気本は読まないのだが。
 以下の文章では『主婦と恋愛』(藤野千夜)『空白を満たしなさい』(平野啓一郎)『三月』(大島真寿美)の内容に触れています。ご了承ください。


 『主婦と恋愛』 藤野千夜
 思わせぶりなタイトルのわりにさらっとしているというか、この「さらっと感」が藤野千夜なのだと言われれば、そうでもあるような。
 タイトルが『主婦の恋愛』ではなくて『主婦と恋愛』なのだから、「主婦」と「恋愛」は別々のものだと示しているのかもしれない。恋愛とも言えないような感情の動きを描いたものだが、全体的に他人との関わりの描き方が上手。
 たとえば、実の娘と同居している義母がやってくるあたり。一泊して翌日一緒に出かける時に、主人公の女性はグロスを念入りにつけたりして唇重視のメイクをするのだが、気さくな義母は「上手く描いたわね、眉」と意外な指摘をしてくる。微笑ましい場面とも言えるのだが、義母との感じ方の違いがすっと現れているようで巧いと思う。

 『空白を満たしなさい』 平野啓一郎
 死者が蘇ってくる話というのは何かずるいような気がするのだが、それが大量で社会現象にもなってしまうのが面白いところ。しかも「復生者」と呼ばれるようになった彼らはまた突然、消え始める……
 主人公が、自分の死は「自殺」だったのだと認め、再び消えていくことを思って悩む姿が描かれる。そして結末が意外に感動的。意外に、というのは失礼な言い方かもしれないが、平野啓一郎にはもっとクールなイメージがあったので。もしこれが「感動」を求める現代人に合わせて書かれたのだとしたら、さすが。

 『三月』 大島真寿美
 二十年前に同じ東京の女子短大を卒業した女性たち。東北に嫁いだ一人の家の近くに来て、ホテルに一泊する。それまでの過程とその日が連作短編の様相で、領子、明子、花、穂乃香、則江、美晴とそれぞれ違う女性が中心になって描かれる。
 最初は、その中の一人とつき合っていた二十二歳で死んだ(自殺?
事故?)森川という男性の話題が中心だと思っていたら、それぞれの人生が描かれ、そして最後に、多くの人命が失われたあの日が来る。タイトルの『三月』とは、あの大震災が起きた三月なのだ。
 もっともこれは、大震災を描いた話ではない。二十年間にそれぞれ何となく「こんなはずではなかった」が「こんなふうに生きてきた」女性たちを描く話と言えるかもしれない。そういうことを表していると思う上手な描写。
 「これが自分の近況であることへのかすかな違和感がみぞおちのあたりで疼いている。」


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