2013年02月04日

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

 録画したものを送っていただいたので、ありがたく見た。興味はあったのだ。ヴィム・ヴェンダース監督の劇映画は『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ランド・オブ・プレンティ』等を見ているが、彼のドキュメンタリー映画を見るのは初めて。

 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは、1940年代にキューバに実在した会員制の音楽クラブだそうだ。1997年、ライ・クーダーが、キューバの老ミュージシャン達とセッションを行いアルバムを制作した時、キューバのミュージシャン達の大半がここの会員だったことから、バンド名にしたのだと言う。アルバムはヒットし、コンサートも行った。その2つのコンサート(アムステルダムとニューヨークのカーネギーホール)の様子に、ミュージシャン達の語りが挟まる形で映画は進行する。

 映画の撮影は1998年で、当時もう90歳を超える人もいた。そういう老ミュージシャンが、がらんとしたホール(?)でピアノを弾いた後、語り始めたりする。あらかじめ音楽との関わりを話してくださいと頼んであったのか、生年、生地、両親のこと、音楽を始めたきっかけ等を語る人が多い。

 中の一人が語る。「昔の仲間と共演するのは楽しい。皆、忘れられた者たちだ。だが、これで記憶に残るだろう」
 これを聞くと、ハッとする。誰もその忘れられることになったきっかけ、忘れられていた間のことを語らない。

 会員制クラブというものの実態も説明されないのでよくわからないが、それは「贅沢」「質素」に二分するなら、「贅沢」の部類に入るものだろうなとは思う。彼らが忘れられたことには、キューバ革命が関係しているのではないか。しかし、彼らの口からは、忘れられた頃の不満は出ない。

 カーネギーホールでの公演を前に、ニューヨークを訪れた彼らが道路や建物の立派さを褒め、自由の女神を遠くに眺めるシーンがある。
 カーネギー公演の最後には客席からキューバの国旗が捧げられ、彼らは嬉しそうにそれをステージ上で広げる。それは素直に、キューバ音楽への賞賛ととらえてよいのだろう。

 この映画には、ストーリー性はない。しかし、ミュージシャン達の語りではなく、キューバの街並みを映し出す映像には、少々意図的なものが感じられる。
 壁に書かれた文字。
「この革命は永遠だ」「私たちは夢を信じる」
 店の看板なのか、「カール・マルクス」(1字壊れている)
 ざらっとした感じの、色のコントラストが強く感じられる映像は、たとえば『パリ、テキサス』でもそんな印象があったから、特にこの映画のためのものではないのかもしれない。

 語られなかったこと、映されなかったもの。
 そんなことを思いながら、2011年TV放映の『情熱カリブ躍動紀行』を見てみる。ここには、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのメンバーの中ではまだ若い方だったエリアデス・オチョアが年齢を重ねて登場し、生きている限り音楽活動を続けたい、その根底にあるのはキューバ音楽だ、と話す。
 映し方の違いなのかもしれないが、このTV番組で見るハバナの街角の方が美しい。むろん、古い建物は傷んでいるが、裏通りでも明るく見える。観光客対策できれいにしたのだろうか? 壁に書かれたスローガン等もTVでは映らなかった。今ではないのか、それとも映さなかったのか。

 もちろん、何を映すかは選ぶことができる。そもそもドキュメンタリーと報道の違いは、ドキュメンタリーは制作者の主観や世界観を表していることだ、という説明をする人もいるらしい。
 10年以上を隔てたハバナの街並みを見て、今までさほど気にしていなかったドキュメンタリーにおける作り手の目、というものを意識した。


  

Posted by mc1479 at 10:03Comments(0)TrackBack(0)
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