2015年08月28日

『ボヴァリー夫人とパン屋』

 以下の文章では、映画『ボヴァリー夫人とパン屋』の内容に触れています。ご了承ください。

『ボヴァリー夫人』を愛読するパン屋がいた。場所はノルマンディー。空き家だった向かいに、フランスの田舎に憧れたイギリス人夫妻が引っ越してくる。妻の名前はジェマ・ボヴァリー。
 パン屋は隣人として、また店主と客として、彼女と親しくなっていく。散歩の途中にも出会う。しかし、パン屋とジェマの恋の話かというと、それは違う。近くの別荘に夏の間だけ来ている青年がいる。パン屋が思い描いた通り、ジェマと青年は惹かれ合っていくが、パン屋はニセの手紙を出して、二人の恋を終わらせる。
 果たしてジェマは『ボヴァリー夫人』のような最期を迎えるのか?
 ジェマを演じるジェマ・アータートンはさわやかでエロティック。ファブリス・ルキーニ演じるパン屋は一種のオタクなのだろうが、オタクにはやさしい映画だ。パン屋はジェマからもそんなに責められることもなく、勝手に彼女をボヴァリー夫人に見立てていられるし、パン屋の妻も文句を言うわけでもないのだから。会話の中に出てくる、イギリス人とフランス人の違いみたいなものをもう少し知りたい気はしたけれど。
 パン屋は「『ボヴァリー夫人』は‘退屈する女‘という典型をつくった」と言い、「平凡な女性は人生に退屈したりしない」と言う。なるほど、「退屈」というのは、文化が成熟した果てに出てくる、ひとつの特権なのかもしれない。


この記事へのトラックバックURL

 

QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。 解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
mc1479