2013年10月09日

『事件救命医~IMATの奇跡』感想

 以下の文章では10月6日に放映されたドラマ『事件救命医~IMATの奇跡』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 楽しみにいていたドラマ。「映画並みに贅沢に作った」という触れ込みもさることながら、井上千尋プロデューサーの「玉木さんの凛とした力強い佇まいは、正義感あふれる医師役を演じていただくのにぴったりだと思いました。さらにこの役はミステリアスな一面もあわせもっており、この深みを演じられるのは玉木さん以外、考えられません」という言葉が嬉しくて、見る前からこのプロデューサーにお礼メールを出そうかと思ったくらい。
 そして見たドラマは、期待を裏切らない出来。TVドラマの使命が「飽きさせないこと」だとしたら、見事にそれをクリアしていた。IMAT(事件現場医療派遣チーム)とSIT(警視庁の特殊犯捜査係)の合同訓練から始まり、訓練中に倒れた隊員への応急手術、公園で起きた爆破事件の犯人の死、銀行たてこもり事件……とめまぐるしく展開する。
 もちろん私は刑事モノをそんなにたくさん見ていないし、医療に従事する人から見れば「この描写はちょっと…」ということもあるかもしれない。けれども脇役に至るまでピッタリと思える配役や、それぞれの人物を一面的でなく描こうとしているのはさすがだと思う。

 東京スカイランド爆破事件で、共に幼い時に父を失った日向晶(玉木宏)と影浦琢磨(田中圭)。日向はIMATの一員として、影浦はSITの隊員として同じ事件に臨むことになるわけだが、日向・影浦という名前からわかるように、彼らは対になる存在なのだ。さらに、東京スカイランド爆破事件の犯人が送ったとされる犯行声明の「太陽がまぶしかったから、やった」という言葉が、「日向」に関連している。
「太陽がまぶしかったから」というのは、カミュの『異邦人』の主人公が、人を殺した理由を問われて答える言葉である。『異邦人』は、人間性の不条理を描いた文学とされている。そして、このドラマの中では、そういう不条理は一番深く、日向の中に折りたたまれている。
 日向がどんな人間であるかを垣間見せてドラマは終わるのだが、そこに至って「玉木さん以外、考えられません」というプロデューサーの言葉に納得する。抱えた闇を表現できる人でなければならない。でも最初から怪しそうに見えては興ざめだ。
 事件現場での日向は、独断的と言っていいくらい行動的だが、それは「医師としての使命感からくる勇み足」なのかと思って見ていると、最後に至って「この男は全能感〈自分には何でもできるという思い)に突き動かされていただけではないのか」とも見えてくる。銀行たてこもり事件の犯人が「最高の権力は、人を殺すこと」と言った時に日向が見せる目つきも、複数の解釈が可能になる。
 しかし、そういう不条理さをたたみ込んでなお、ひとりの人間として「こういう人間はいるだろう」と感じさせるところが巧み。ラストシーンの、ゆがんだようにも見える後ろ姿にもゾクっとさせられた。


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