2013年09月19日

それでも『MW』が好き(映画『MW』感想)

チャンネルNECOで『MW』を放映していたので、楽しんだ。もちろん映画館でもDVDでも何度も見ているんだけれど。このブログを見てくださっている方は気づいていらっしゃるかと思うが、私は玉木宏好き!で『MW』落ちなのだ。
というわけで以下の文章では『MW』の内容に触れています。ご了承ください。

 もちろんこれが突っ込みどころの多い映画なのはわかっている。2009年度のベスト映画・ワースト映画を選ぶ雑誌の投票で、ワーストに入れていた人がいるのも知っている。良し悪しの判断と好きの基準は違う、と言ってしまえばそれまでだが、私は『MW』が好き。と言うより結城が好きなのか。

 冒頭のカーアクションのシーンは長過ぎでしょ?と言われれば、ハイ、そう思います。あそこを長くするのは原作の手塚治虫の意図に反するような気さえする。手塚治虫は、苦しみを描く時、頭の中で苦しんでいるだけではなくて肉体に感じられる直接的な苦しみとして描こうとしてきたように思う。アトムのようなロボットなら、壊れる。見ている側はそこに痛みを感じる。ましてや生身の人間なら。
『MW』の結城は、国家に抹消されようとしたという精神的な苦痛だけでなく、毒ガスの後遺症を負っている。それが彼の苦痛をリアルに感じさせる。そのため、復讐する相手に対しても、肉体的苦痛を感じさせることを課しているようだ。だから、殺しに至るシーンは長い。しかし、カーアクションでは、生身の人間が苦しむわけではない。そういう点において、手塚作品の意図から離れているような気がする。
 国家、というのが抽象的な存在だとすれば、個人というのはひとりひとりの具体的な存在だ。具体的な人間であることを強調するためにも、国家に挑戦する個人である結城の身体は余すところなく映し出される。
 原作の結城は、自分の身体を最大限に利用する。MWを盗み出すためにも、男と練る。毒ガスという目には見えない、したがってその恐ろしさも見えにくい「悪」に対して、生身を傷つけられている結城は生身で反撃する。
 映画の結城は男を陥れるために自分の身体を使わないけれども、それを補って余りあるのが結城=玉木の説得力ある身体なのだ。

 彼の身体を丁寧に映し出すことが映画のアピールになることは作り手も心得ていて、最初のほうにシャワーシーンを持ってきたのだと思う。細身の、しかしギスギスしてはいない滑らかな身体は、手塚マニアも納得の(手塚作品の主人公はそうであることが多い)両性具有的だ。
 銀行員としての顔の時はスーツ姿で、後半、犯行を重ねていく時になると腕をむき出しにした黒ずくめの格好になるのも、その身体の美しさを効果的に見せている。
 もちろん、結城のやっていることは社会的には悪事に違いないけれど、彼の行為が魅力的に見えるのは、国家と個人が対立した場合、必ずしも個人が負けるわけではないことを見せてくれるからだ。国家に圧しつぶされない個人。そういう話なら他にもあるよ、と言われるかもしれない。が、そういう個人をここまで美しい、色気のある人が演じることはあまりないと思う。そこが、私が未だに『MW』を好きな理由。そしてその身体を結城そのものにして映像に焼き付けてくれた玉木宏を熱愛する理由なのだ。


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この記事へのコメント
こんばんは。「MW落ち」と仰る青井様の言葉に感応して参りました。
内容の如何は問題にならないほど、玉木さんの演じる結城は魅力的でしたよね。
何より凄いと思ったのは、作中で一度も「結城が美しい」というセリフがなかったこと。
昨今のドラマ・映画では、俳優の演技や所作に頼るのではなくセリフで、「美しい」「魅力的」「イケメン」と説明させますよね。
その押し付けがましさ、セリフと実際のビジュアルの乖離にうんざりすることが多いのですが、この作品そして「大奥」でも、絶世の美男役の玉木さんはその存在感だけで観客にその美を納得させました。
中国(香港か台湾だったかも)のメディアが、「この作品は玉木の美しさを鑑賞するためのもの」と評していたのが、それ以外の価値はないという露骨な評価にガックリ↓、と落ち込みつつ、まさに正当な評価だと納得↑、と複雑なファン心です。
そしてその美が薄っぺらい外見だけではなく、内面の深く充実したものがあるからこそ、さらに見る者に恍惚感を与えると‥‥す、すみません。
長々と勝手なことを書き連ねました。
申し訳ございません。
秋めいてきて、夏バテの後遺症が出てくる時期です。
どうぞご自愛くださいませ。
Posted by ゆう at 2013年09月20日 21:45
ゆう様、
コメント、ありがとうございます。作品の中では「結城は美しい」って一言も出てこない…本当ですね(気づきませんでした!)。まさに、そういう言葉による補いの必要のない説得力ある美しさ。作品自体も、もう少し脚本が細かいところまでチェックしてあったら良かったのに、と思うところもあります。米国が悪者になる映画は基本的に日本では受けないのか、とも思います。でもすべての文句や注文を超えて、惹かれるんですよね。罪な映画です。
Posted by mc1479mc1479 at 2013年09月21日 07:10
 

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