2013年02月10日

本『ロバート・キャパ最期の日』『アメリアを探せ』

 若くして亡くなった人の場合特に、その人の最期の様子や、最期を迎えた地に心惹かれる――ということは、あるらしい。

 『ロバート・キャパ 最期の日』の著者は、フリーのカメラマン。大学の1つ先輩に一ノ瀬泰造(フリーの戦争カメラマン。26歳でカンボジアで死亡)がいた。
 若い頃にはさしてキャパに興味がなかったという著者は、天才写真家キャパがある時期から写真について、人生について、深く悩んでいたことを知り、キャパの最期の地を訪れたいと思う。キャパ自身の撮った写真が残っており、一緒にいた人たちの言葉もあるので容易に見つかると思っていたが、様子が変わっていて、なかなか「ここだ」という地点に行き着けない。
 著者が、ベトナムの人たちに尋ね尋ねしてその地に行き着くまでと、キャパが日本へ来て、そこからベトナムへ渡り最期を迎えるまでの様子とが、交互に書きつづられる。
 
 戦争カメラマンとして有名になり、40歳を迎えて「やはり、インドシナへ行かなければならない」とそこへ赴き、地雷を踏んで亡くなったキャパ。
 著者はキャパ最期の地に立ち、あらためてキャパの「ラスト・ショット」を観察するうちに、キャパは彼の望むベストアングルに向かって走り、地雷を踏んだのだと考えるようになる。そして、写真家は「対象と真正面から向かい合う必要がある」ことを確認する。
 キャパ自身の魅力――ハッタリをかましたりするところも含めて―
―と、キャパの写真の特徴をできるだけ述べようとする著者の丁寧さ・誠実さが伝わってくる本。

『アメリアを探せ』のアメリアは、アメリカの女性飛行家アメリア・イヤハートのこと。彼女の場合、最期の場所が特定できない(遺体も、機体の一部すら見つかっていない)ことが、伝説をつくる原因になった。
 時代は、キャパよりだいぶ遡る。キャパが亡くなったのは1954年5月25日。アメリアが世界一周飛行の途中で消息を絶ったのは1937年7月2日。9月になってアメリアの夫が総領事を通じてイヤハート機残骸の捜索を正式に日本政府に申し入れた時、その申し入れを了解したのが海軍次官山本五十六だったとか。そういう時代だったのだ。まだ戦争は始まっていなかったが緊張の高まった時期で、だからこそアメリアは実はスパイだった、捕えられて日本軍に処刑された、イヤハート機捜索をあれほど大々的に行ったのは日本の南洋委任統治領を偵察するためだった……などと、さまざまな憶測が生まれた。
 アメリアが語られる場合、女性飛行家のパイオニアという面から語られることが多いのだろうし、この本もそれに沿っている。同時に彼女の大西洋横断や世界一周などの飛行に多額の資金が必要で、その調達に苦労していたことなども書かれている。
 しかしやはり最期の謎を探りたいという思いは強いのだろう、サイパンに今もいる「白人女性のパイロットを見た」と言う人々への取材もある。ただし、もう亡くなっている人も多いし、アメリアが日本人に捕まえられた等という証拠になるようなものは何もない。
 アメリカ人の英雄願望、時代背景、そういうものが創りだした伝説。アメリアの創設した女性パイロット団体のメンバーは「アメリアがスパイだったとか、日本軍に殺されたとか、いい加減にしてほしいと思っている。アメリアは遭難して、太平洋に消えてしまったのよ」と語り、著者もたぶんそれを肯定している。
 対象がアメリカ人女性であり、既に彼女を知る人も亡くなっていることが多いとあって、アメリアがなぜ飛ぶことにこだわったのか、については深く追究されない(できない)。一人の女性飛行家の謎が投げかけた波紋を考える本として面白い。

 『ロバート・キャパ 最期の日』 横木安良夫 (2004年発行)
 『アメリアを探せ』 青木冨貴子 (1983年発行 
                      増補改訂版 1995年発行)


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