2016年03月22日

「ファイナルガール」

 以下の文章では、藤野可織の本「ファイナルガール」に収録されている作品の内容や結末に触れています。ご了承ください。


 この人の書く話は、どこか気色悪い。「爪と目」などではそれが体の内側に入ってきそうな気色悪さだったのだが、ここに収められた話は、どこかユーモラスな感じもする。

 ストーカーに好かれる、とか、あるはずのないドアから屋上に出て戻れなくなる、とか、予定もなかったのに歯医者へ行って親知らずを抜くはめになる、とか・・・・・・当人にとっては災難なのだが。
 ユーモア、というよりブラックユーモアを一番感じたのは「狼」。
 幼い頃、父と母が狼をやっつけて守ってくれた。「俺」はそれ以来、手に入れなければならないものをうっかり手に入れ損なったきがして今度狼に出会う時に備える。体を鍛え、体力をつける。就職した会社で知り合った女性と一緒に暮らすことになり、引っ越したその日に、狼がやってくる。
「俺」が動けすにいる間に、彼女が狼をやっつける。

 これがユーモラスに感じられるのは、語り手が「俺」で、彼女がさっさと狼をやっつけてしまうからかもしれない。表題作の「ファイナルガール」でも、連続殺人機に何度も出くわす主人公が女性だから面白いのかもしれない。狼を前に動けなくなるのが女性で、闘って生き延びるのが男性だったら、面白みはずいぶん減るかもしれない。
 そこに作者の企みがあるのかもしれないが、その企みを深く考えなくても、面白く読めることは確か。


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