2015年09月24日

本『岸辺の旅』

 以下の文章では、本『岸辺の旅』(湯本香樹実)の内容に触れています。ご了承ください。


 湯本香樹実というと、お年寄りと子どもの交流を描くというイメージが強かったので(たとえば『夏の庭』や『ポプラの秋』)、へぇ、これは夫婦の話なんだ、と思って読んだ。
 3年前に失踪した夫が、夜中に突然帰ってくる。夫はすでに死んでいて、ここまで戻ってくる途中にあちこちで世話になったと言う。その、夫の世話になったところを今度は妻と一緒に逆にたどる。そういう旅だ。
 死者が戻ってくる、という話はよく作られrる。話によっては、死者は飲んだり食べたりはしないという設定になっているが、ここでの夫は普通に飲食する。夫が死んだ場所まで戻る途中で、夫が世話になった人たちに再会していくのだが、新聞店の島影さん、ひよどり中華店の神内さん夫妻、タバコ栽培をしている星谷さん、その娘と孫・・・・・・
 実は島影さんもすでに死んでいる人であり、神内さんの妻は幼くして亡くなった妹のことにこだわっており、星谷さんの娘の夫は亡くなっている。
 では死に彩られた陰気な話かというと、そうでもない。そもそも主人公がしらたまを作っている時に、それが好物だった夫が帰ってくるのだが、何度か登場する「食べる」シーンは楽しい。死んでからも、しっかり食べられるうちは「まだ大丈夫」だそうで、だから「食べる」ことは、ほとんど死の対極として、こんなに楽しそうに描かれるのかもしれない。
 ひとことで言えば「ある人の死を納得するまでの話」なのだろうが、適度にリアルな要素(夫の失踪後に主人公がどうしてきたとか、夫がどういう人物だったとか)を投げ入れながら、キレイにすくい取っている感じがした。


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