2015年09月08日

本『いとま申して~『童話』の人びと』

 以下の文章では、北村薫の本『いとま申して~『童話』の人びと』の内容に触れています。ご了承ください。


 三部作のうち、先に第二作の『慶應本科と折口信夫』を読んだので、戻って第一作を読んだ。作家の北村薫が、自分の父(明治42年生まれ)の日記をもとに書いたもの。

 その時代を描いたものでもあり、その頃に生きたひとりの中学生~高校生の姿を描いたものでもある。
『童話』という雑誌があり、投稿を募っていた。父の作品が一度入選して、選評も載る。それによって父は「作品を書くこと」にこだわるようになり、同人誌に参加するが、その同人誌も休刊になる……
 そういう、ちょっと昔の、創作に関わろうとした少年の誰もが味わったような経験がつづられていく。
 ただ、作者の父のことをさほど知りたいと思わないような読者にとっては、興味深いのは『童話』には、後に有名になった人たちが投稿していたことだろう。
 金子みすゞ。彼女は何度も入選していた。
 淀川長治。『童謡』の部で佳作になった。しかし淀川らしさが表れているのは通信欄(読者からの手紙)だと作者は言う。そのお便りがひとつ引用されているが、確かに興味深い。
「まあ! 素的ですね」から始まって、「では、サヨナラ」で終わる。この人の語り口は中学生の頃からもう出来上がっていたのだ。
 後年になって作者の父は、テレビに出てくる人が、かつて自分と同じ雑誌に投稿していた人だと気づいたのだろうか?
 そんなことも思いながら、読んだ。  

Posted by mc1479 at 08:10Comments(0)TrackBack(0)
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