2015年06月08日

「玉木宏の歴史タイムトリップスペシャル」

 以下の文章では、6月7日に放映された、同番組の内容に触れています。ご了承ください。

 タイトルは、このあと「戦後70年教科書から消された男~韮山反射炉を作った江川英龍~」と続く。長いよ。一回きりのスペシャルで、内容をできるだけ表そうとすると、どんどん付け加えられて長くなる……ということなのだろうけど。
 玉木くんがナビゲーターで、平田璃香子さんがレポーター。どう違うんだ? 東京から近い所は玉木くんが訪れて(伊豆までは行っている)、長崎などの遠い所や、新開発のタイムトリップビューに関する説明は平田さん、ということらしい。
 このタイムトリップビュー、メガネ式とタブレット状のものとがここでは出てきて、たとえば現在の日本橋に立ってそのメガネを通して風景を見ると、「江戸時代の日本橋(CGで合成されたもの)」が見えるという仕掛け。これを開発したのがフジテレビで、この番組はBSフジの番組。新技術を使って何か番組を作りたい、というあたりから発想されたのだろうか。フジテレビのあるのはお台場。台場というのは大砲を据える台だったことを知る人は少ないだろう。それを作る指揮をとった人、さらには世界遺産登録が勧告された韮山反射炉を作った人。ということで、江川英龍が取り上げられたのではないだろうか。
 この番組を見る前に、本を一冊読んだ。江川と中島三郎助と榎本武揚の三人について書いた『幕臣たちと技術立国』。
「技術」を取り入れ、定着・発展させることを優先した男たちの話。江川も確かに絵や詩文を学んだだけでなく、測地術、刀打ち、後には砲術を学んでいる。本を読んだ時に面白いと思ったのは、蘭学嫌いの幕臣に邪魔をされたり、せっかく西洋の砲術を取り入れた者が現れても、幕府の鉄砲方(役人)が自分たちの地位が脅かされると感じ評価しないあたり。こういう足の引っ張りで世に出られずに終わっていった人もいるのだろう。
 番組では、江川の仕事を紹介するのが主だから、そういう邪魔は描かれない。しかし実際の江川邸、彼が焼いたパンの再現(乾パンのようなものだが大きい)、彼が着ていた着物などが見られるのは興味深い。資料がたくさん残っているのは子孫の方たちが大切にしてきたからだろうし、江川が地元の人から愛された代官だったことも関係しているのだろう。
 番組は、江川の仕事ぶり・人間性をそつなく紹介する。あまり知られていないだけに「へえ~」と思うことも多いだろう。戦前の教科書には偉人として載っていたという江川。戦後消されたのは、韮山が大砲を作る所であり、陸軍の管轄であったことが影響しているとか。
 では、なぜ今、江川を取り上げるのか。
 幕末の海防を重視した男。今また日本は海防に努めるべきだ、という主張に利用されたら嫌だな、と思ったが、さすがにそうは言わなかった。未来を見つめた男、として2020年のオリンピックでお台場も会場になることと結びつけてまとめていた。そうか、フジテレビは東京オリンピック推し、だったっけ。
 ふだんはつぎはぎだらけの着物を着て、地元の農民に軍事訓練を施していた江川。歴史上、彼がもっともカッコ良かった場面は、イギリスのマリナー号が下田に居座った時に、門人、家臣、農民に揃いの軍服を着せ、自らも華やかな野袴と陣羽織に大小の刀を帯びて交渉し、退去させたことだろう。江川は170センチと当時としては長身、目の大きな男で、さぞ堂々としていただろう。
 しかし最も尊敬すべきは、座礁して帰れなくなったロシア船の乗員を全員救出させ、新しく日本で洋式の船を作らせ、そこに参加した日本の船大工にも技術が伝わるようにしたことだと思う。ロシアには感謝され、日本には技術が残った。「何を継ぐべきか」がわかっていた人と言える。
 玉木くんのセリフは与えられたものだろうから、本音が聞けるような番組とは違ったけれど、彼にとっても養分になったのなら、嬉しいことだ。
  

Posted by mc1479 at 14:05Comments(0)TrackBack(0)

2015年06月08日

『サンドラの週末』

 以下の文章では、映画『サンドラの週末』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 ダルデンヌ兄弟の作る映画には、いつも「こういう切り口があったか」と感心させられるのだが、今回もそうだ。
 体調不良から仕事を休職していたサンドラが、ようやく復帰できることになる。ところが、会社から電話。ボーナス支給のために一人解雇しなくてはならず、サンドラを解雇する、というのだ。同僚の一人は「あなたを復帰させるか、ボーナスか」という投票が行われ、主任が圧力をかけたと言う。家のローンがあり、子どもが二人いるサンドラは、「君の働きがないと困る」と言う夫にも励まされ、週末に同僚のところを回る。月曜日の再投票を取り付けたので、自分に投票してほしい、と頼むために。
 同僚の復帰か、ボーナスか。シビアな選択だが、起こり得ることだと思う。「サンドラがいなくてもやっていけることがわかった」「いや、残業が増えると困る」「でも残業代がもらえる」どれも本音だろう。
「君に投票する」と言ってくれるのは、かつて仕事上で助けられた人。主任に脅されたり強制されるのは嫌だから味方する、と言う人。一方で、どうしてもボーナスが欲しいから居留守を使って会わない人もいる。
「物乞いみたい」と渋るサンドラを励まし、手伝う夫は偉い。もしかすると、ダルデンヌ兄弟が創造した中で一番イイ男ではないだろうか。
 結果は、サンドラが言うように「善戦した」とだけ書いておこう。後味は悪くない。  

Posted by mc1479 at 13:13Comments(0)TrackBack(0)
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