2013年07月03日

映画『しわ』を見て

以下の文章では『しわ』の内容・結末に触れています。ご了承ください。

 スペインのアニメーション映画。主な舞台は養護老人施設で、主要人物のエミリオはアルツハイマー。こういう題材をアニメ映画にする、というのが興味深かった。
 もちろん実写映画でもこのストーリーは描けるし、そんなに暗くない描き方をすることもできると思う。
 施設に入ったエミリオは、さっそく同室の男ミゲルのずうずうしさを知る。そして自分の持ち物を盗まれたのではないかと疑う。しかしミゲルは施設内のことをよく知っており、頼れる男でもある。
 食事の席で一緒になるアルツハイマーのモデストと、その世話をしている妻のドローレス。面会に来る孫のためにジャムや紅茶を集めているアントニア。その他にも、オリエント急行に乗って旅しているつもりの女性や、週に一度の運動の時に来る女性インストラクターを楽しみにしている男性もいる。エピソードのひとつひとつは、いかにもありそう。
 ミゲルの貯めた金で借りた車をエミリオが走らせるところがクライマックスだろうが、そこで視点が変わる。
 たいていエミリオの視点から描かれてきた話が、ミゲルから見た話になるのだ。ミゲルは、エミリオのベッドの下に、エミリオが「盗まれた」と言っていた品を見つける。それからのミゲルは、周囲の人に前よりも少し親切になったようだ。そして、エミリオの食事の世話もしてやるようになる。
 ずっとエミリオ中心ではなく、途中でミゲルから見た世界に切り替えたところが上手だと思う。そして最後は、彼ら二人ではない他の人物(もちろん、それまでにも出てきているが)のハッとさせ、ほっとさせる1エピソードで終わる。
 もちろん、ものすごく暗いだけのストーリーではないが、アニメにしたことによって和らげられている点があり、そこに「この題材をアニメで描いた」ことの理由もありそうだ。アニメで描く顔というのは、どんなふうに描いても、どこかかわいい。もちろん今のアニメには、もっとリアルな描き方をするものもあるけれど、この映画の絵は昔ながらのアニメの単純化と平面化をされている。
 これを人間の俳優が演じていたらつらくて見たくない、という人もいるだろう。アニメだと見る側は、来るべき自分の将来を見るというよりは、もう少し冷静に、彼らを見守ることができる。それがアニメにしたことの利点だと思う。  

Posted by mc1479 at 06:45Comments(0)TrackBack(0)
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